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脳機能とリハビリテーション研究会ブログ

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第6回脳リハ研 定例勉強会のご報告

2013年9月8日に開催されました第6回脳機能とリハビリテーション研究会定例勉強会の内容をご報告します。
今回は諸事情により症例検討の2演題の報告は割愛させて頂きます。
今回も厚いディスカッションが行われました。また若いセラピストや学部生の参加も目立ちました。積極的に知識を吸収しようとする若いエネルギーを感じました。

期日:2013年9月8日 13時~16時30分
会場:タワーホール船堀(406会議室)
発表:講座1題、症例検討3題
参加者:21名


プチ神経科学講座
「行動選択の神経機構〜計算論的神経科学の視点から〜」
 講師 野々村 聡 氏 (玉川大学大学院 脳情報研究科 博士後期課程)

我々は日々の生活の中で、試行錯誤を通じて最適な行動選択を学習する。こうした学習は、脳ではどのように実現されているのだろうか。本講義では、この疑問に対する答えとして、計算論的なアプローチによって、大脳基底核には強化学習といわれる学習則が実装されている可能性があることを示したShultzら[1]の論文を紹介した。
彼らは、中脳のドパミン細胞の応答様式が、強化学習理論で使用されている学習信号(報酬予測誤差)に相当することを明らかにし、大脳基底核-強化学習仮説を提唱した。現在では、この仮説に基づいた様々な研究が展開され、大脳基底核-強化学習仮説は広く受け入れられている。
 こうした一連の研究は、脳における高次情報処理のしくみの解明につながる成果であり、医療従事者が脳損傷患者様を診断・評価・治療をする上でも役立つことが考えられる。

1. Schultz W, Dayan P, Montague PR (1997) A neural substrate of prediction and reward. Science 275: 1593-1599.



症例検討

 「刺激とは異なる部位で感じる脳卒中後のalloesthesia(知覚転位)について」
 演者 高杉 潤 氏 (千葉県立保健医療大学リハビリテーション学科)
     山本 哲 氏 (茨城県立医療大学大学院)

知覚転位(alloesthesia)を示した慢性期の脳卒中左片麻痺2例について、従来のalloesthesiaの報告との比較を行った。
従来の報告との合致点としては、以下の点であった
1.いずれも右半球損傷であった(うち1例は圧倒的に多く見られる被殻出血)。
2.いずれも麻痺側上下肢は重度の体性感覚障害(脱失)であった。
3.いずれも麻痺肢への強い痛み刺激(侵害刺激)で出現した。

一方、従来の報告と異なる点としては、以下の点であった
1.いずれも慢性期(発症後4ヶ月以上)の症例であった。
2.いずれも知覚転位は対側(健側)肢に起こらず、長期間、同側肢の範囲内に留まっていた。
3.いずれも発症から6ヶ月以上経過しても、本現象に大きな変化は認めなかった。
4.右放線冠の梗塞が1例いた。

以上、知覚転位は重度感覚障害を伴う右半球損傷例に多く、強い痛み刺激で誘発されるという、従来の報告を支持する結果となった。しかし急性期の初期に対側性転位(allochiria)で見られ、徐々に同側性転位に移行し、発症後20日程度で消失するとされる従来の報告とは異なっていた。今回の慢性期例で見られたalloesthesiaは、ほとんど報告例がなく珍しい現象と言える。と同時に実はまだ確認されていないだけで、実際は慢性期例でも多く見られる現象なのかもしれないという可能性も否定できない。今後、臨床の評価場面でも注意深い分析が必要と思われる。
by noureha | 2013-09-10 17:47 | 勉強会
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