2013年11月3日に開催されました第7回脳機能とリハビリテーション研究会定例勉強会の内容をご報告します。
今回も熱いディスカッションが行なわれました。拡散テンソル画像についての発表では、これから拡散テンソル画像研究を行いたいと考えている他施設の方への情報提供、情報交換が行なわれました。また視床痛についての発表では、動物モデルにおいて基礎的研究を行なっている参加者からの情報提供や提案が、また他の参加者からは視床痛に関する先行文献を基に、今後の評価や対応についてディスカッションを行なうことができ、大変有意義な勉強会となりました。今回は事情により症例検討の1演題の報告は割愛させて頂きました。
関東甲信越ブロックPT学会と重なったこともあり、参加者は13名と少なくはありましたが、各参加者それぞれが積極的に発言でき、自由闊達なアットホームな勉強会となりました。
期日:2013年11月3日 13時〜16時30分
会場:タワーホール船堀 応接会議室
発表:講座1題、症例検討4題
参加者:13名
内容
・プチ神経科学講座
「論文読解に役立つ神経科学研究法入門」
武下直樹 氏(茨城県立医療大学)
臨床研究に多用される脳イメージング、電気生理を中心に、各研究手法の狙い、データ解釈するうえで注意すべき点など、神経科学領域の文献を読解するうえで役立つ基礎的な知識を紹介された。
(参考図書: Matt Carter, Jennifer Shieh. 2009. Guide to Research Techniques in Neuroscience)
・症例検討
「両側前大脳動脈の梗塞により両側補足運動野・両側前部帯状回が障害された一症例 ~長期間のリハビリテーションにより日常生活活動が自立にいたった症例~」
若旅正弘 氏(鶴巻温泉病院 リハビリテーション部)
両側補足運動野、両側前部帯状回が障害されることは極めて稀であるが、著明な自発性の低下や無動性無言が生じるとされ、予後不良であることが報告されている。しかし、長期間の経過の報告は極めて稀であり予後については不明な点も多い。
症例は両側前大脳動脈の梗塞により両側補足運動野、両側前部帯状回が障害されていた。発症後約2ヶ月時点の転入院時点では、これまでの知見通り、ベッド上での体動・発話はなく著明な自発性の低下を認めた。しかし、約8ヶ月間の長期間のリハビリテーションにより発症後約10ヶ月では、日常生活活動が自立に至ったこれまでの報告とは異なり、本症例は長期的なリハビリテーションの介入により日常生活活動が自立した点で貴重かつ興味深い報告であると考える。今後、どのような症例で改善が期待できるのか知見の蓄積が必要であると考えられた。
「偽性視床痛を呈する症例へのミラーセラピーについて」
市村大輔 氏(多摩川病院 リハビリテーション科)
偽性視床痛を呈する症例に対しミラーセラピーを行い、軽度改善がみられた症例の報告である。症例は左中大脳動脈領域の脳梗塞例。発症後約1ヶ月時点で、右半身に異常な痛みを呈していた。発症後3ヶ月で痛みの変化がみられず、当院外来を受診し、PT処方がされた。
症例の神経学的・神経心理学的所見は、軽度の運動性失語がみられるが、運動機能、認知機能は生活上問題ないレベルであった。感覚は触覚が中等度鈍麻が認められ、深部感覚は左右差は認められなかった。痛みに関しては、動作時痛はなく、冷たいものや熱いものに触れると痛みの感覚が惹起され、安静時痛の訴えもあった。そこでミラーセラピーを行ったところ痛みの軽減の訴えがあった。ミラーセラピーが本症例の痛みに対しても有効であったことが示唆された。さらに今回の勉強会では、今後の治療に関して議論することができ、大変有意義な会であった。
「拡散テンソル画像による拡散異方性(FA)と身体機能の関連」
山本哲 氏(茨城県立医療大学大学院)
拡散テンソル画像(Diffusion Tensor Imaging 以下、DTI)は現時点で、生体内において非侵襲的に白質線維方向を表す唯一の方法であるとされる。近年リハビリテーションの領域においても、DTIを用いて大脳白質の構造的異常の評価を行った報告が増えている。DTIのパラメータである拡散異方性(Fractional Anisotoropy以下、FA)は、白質が密な部位はFAが1に近く、白質が疎な部位は0に近くなる値である。ワーラー変性などによりFAは低下すると報告されている(Wieshmann et al., 1999)。
対象は、左放線冠を含む損傷により右片麻痺を呈していた3名であった。DTIの解析には東大放射線科開発のフリーウェア、dTVを使用した。左右の大脳脚中央部を関心領域に設定し、その部位のFAを算出した。患者の運動機能評価はBrunnstrom stage(BRS)上肢-手指-下肢スコアにおいて最も低いものとした。
結果、患者の障害側大脳脚のFAは、非障害側と比較し減少していたため、障害側の錐体路はワーラー変性を来たし、神経障害を受けていると推察される。また患者のBRSはⅢ以下であり、運動障害は重度であったため、FAは運動機能障害を表す指標となる可能性が示唆された。
今回の勉強会のご報告は以上となります。
みなさまのご参加、ありがとうございました。

参加者の皆さんは、とても真剣に聴講され、積極的にコメントしていました。

症例検討の演者も皆さん頑張って報告しています。