5月22日、第17回脳リハ研定例勉強会が行なわれました。
前回勉強会と引き続き、今回も参加の締め切りを行う程の申し込みを頂き、大変盛況に勉強会を終えることができました。また、ディスカッションも非常に活発に行われました。
次回の定例勉強会も、引き続きのご参加および報告をお待ちしております。
期日 2016年5月22日(日) 13時00〜16時30分
(開場:12時50分より)
会場 タワーホール船堀(東京都)
402会議室(4階)
アクセスMAP参加費 会員 無料 非会員 500円 学部生 無料
参加人数 29名
内容 プチ神経科学講座「リハビリテーションにおいて重要な小脳機能について」
市村大輔 氏(平成扇病院),山崎匡 氏(電気通信大学)
症例報告①
「重度の夜尿症を呈した右放線冠梗塞例」
加藤將暉 氏(虎の門病院分院)、高杉潤 氏(千葉県立保健医療大学)
症例報告②
「異常感覚を「氷がついている」と表現した脊髄不全損傷例」
田中大介 氏(鶴巻温泉病院)、添田凌 氏(鶴巻温泉病院)、今村武正 氏(鶴巻温泉病院)
話題提供①
「小脳損傷後の認知・情動障害の長期的予後」
若旅正弘 氏(茨城県立医療大学大学院)
発表内容の概要は、前回案内のブログをご覧ください。
■定例勉強会の様子
各発表において、大変興味深い話題が提供されました。
市村氏からはリハビリテーションにおいて重要な小脳機能についてのプチ神経科学講座がなされました。内容は主に小脳の①運動制御や運動学習に関わる機能,②小脳の高次脳機能についてでした。
①で特に興味深かった点は,運動学習における分散学習の有用性についてです。集中的に運動課題を行い学習を行う条件に比べて,分散的に休憩を挟みながら(90分以上)運動学習課題を行う条件の方が,学習の保持効果が高いとのことでした。このメカニズムについては,両者で運動記憶がされる場所が異なる(小脳皮質,小脳核)という点が説明され,また90分という時間は,刺激により遺伝子が発現しタンパク質の生成が起きることにより反応に変化が起きる時間であるということが,ディスカッションの中で意見が出ました。
②の小脳の高次脳機能障害に関しては,小脳の障害によって遂行機能障害,言語障害,感情障害,空間認知障害などの小脳性認知情動症候群が生じうるとのことでした。またこの障害は,小脳前葉の障害では起きにくく後葉の障害により生じやすいということでした。しかしながら後葉の障害を持つ患者の全例に高次脳機能障害が生じるわけではないこともあり,今後,後葉障害による高次脳機能障害の有無について症例報告を重ねてゆく必要性を感じました。
市村氏の発表の様子
加藤氏からは,放線冠脳梗塞後の夜尿症を呈した症例についての報告がなされました。本症例は過去にくも膜下出血及び脳梗塞の既往があり,前部帯状回(ACC)や眼窩前頭皮質(OFC)の損傷を有していました。既往のACCやOFC含む前頭葉の障害によって過去に夜尿症を呈し,今回発症前前には夜尿症が消失していましたが,今回の放線冠の脳梗塞により夜尿症が再度出現していた症例でした。
今回の夜尿症が出現した理由として様々なことが考えられますが,前頭葉障害による抑制作用の減弱のみに目を取られず,運動麻痺によりトイレに行くことが心理的/身体的に困難になることや,オムツをしているために失禁しても気にならなくなってしまうなどの環境面含め,多様な視点で評価を行う必要性についても感じました。
またSPECTによる前頭葉の脳血流変化の評価があれば,diaschisisが起きていた可能性を示せるため,今後の更なる検討が期待されました。
加藤氏の発表の様子
田中氏からは,脊髄不全損傷例における異常感覚についての報告がなされました。この異常感覚は本人の安楽な療養生活の妨げになっているとのことであり,この軽減を目的として介入を行ったとのことでした。介入方法のヒントとして先行研究(脊髄損傷者の疼痛に対し鏡で自身の上半身を見せ,下半身は歩行時の映像を見せることにより疼痛が減少したという報告)をもとにして本症例の上肢に対し介入を行ったとのことで,興味深い報告となりました。この異常感覚は,他動運動では残存するも自動運動にて軽減するという特徴があることから,ディスカッションではミラーセラピー等を行う際には自動運動も合わせて行うことが推奨されるのではないかという議論がなされました。
田中氏発表後のディスカッションの様子
若旅氏からは,小脳損傷後の認知・情動障害の長期的予後についての話題提供がなされました。小脳の脳出血で脳幹を圧迫,もしくは水頭症や脳室穿破が生じることによって,特に重篤な認知・情動障害が生じやすいとのことでした。しかしながら小脳に限局する損傷を持つ患者においても認知・情動障害は軽度ではあるが生じるとのことであり,非常に興味深く感じました。
フロアからのディスカッションでは,小脳虫部の損傷を持つ患者で短期記憶障害が残存した症例を過去に経験したとの話が出ました。思い返すとこの症例も出血量が大きく脳幹の圧迫が生じており,この記憶障害が生じた理由について本日になって納得することができたとの言葉が聞かれ,参加者においても有意義な話題提供となったのではないかと感じました。
若旅氏の発表の様子
第17回定例勉強会の報告は以上となります。
次回勉強会のご案内については、近日中にお知らせ致します。